暗雲を行かない

ビタミンDを求めて

43. 「たかが殺人じゃないか」の推理と感想

この記事はネタバレを含みます。

この本には2つの殺人事件が登場する。密室殺人と解体殺人である。

そしてご丁寧にも、終盤の『読者への質問状』と書かれた部分で、ここまでの記述でトリックを解明できる--ようなことが書いてある。そして動機まで推理するのは無理とも書いてあるので、誰が殺人可能だったかを考えればいいはずである。

その推理を書いて行く。

密室殺人の推理

さっぱりわからない。怪しい部分を箇条書きにしてみる。

・子猫の死骸が布袋に入れられ、家の近くに置いてあった(子猫は腐っていた) ・徳永の死体は腐っていなかった(死後一日経過していない。ただハエはたかっていた) ・徳永の左側頭部に挫傷あり。頭蓋骨を強打し死亡 ・凶器は平たい板のようなもの。ほぼ水平な角度から強打された ・徳永を殺した犯人は、徳永に警戒されずに一緒に部屋に入ることができた ・密室にする必要がないのに、密室にした理由は? ・屋根裏から竹の葉が一枚落ちてきた。なんで? ・鋸も金槌も使わず現場で組み立てることのできる家だが、竹の格子はネジ式だった。ネジは使っていいのか?(細工の後はなかったらしいが) ・鍵は2本ある。小木曽夫婦が1本。もう1本は市役所にあり、郡司と恩地が借り出した。 ・死亡推定時刻は4~7時間

玄関も窓も施錠されており、出入り不可能。シンプルに考えると、犯人は鍵を使って玄関を開け、犯人と一緒に部屋に入ったあと殺害。その後に鍵をかければ密室完了である。

犯人にとっては密室にするメリットはないが、なぜ密室にしたのか?

密室になることでデメリットを被る人間は? 鍵の所有者が疑われる。つまり小木曽夫婦、郡司、恩地の誰かが疑われると嬉しい人物が犯人?

小木曽夫婦と恩地は知らないが、郡司は嫌われ者なので、誰から恨まれてもおかしくはない。鏡子が怪しいが…

別宮が「なにかにおわないか」と言ってから徳永の死体が見つかることになった。実際に勝利たちも臭いを嗅いでいる。臭いの正体は猫の死骸で、これが死臭を放っていた。

となると、自然に徳永の死体を見つけることができるように、事前に猫の死骸を用意していた人間がいる?前乗りしていた別宮が怪しいが……

小木曽夫は片腕なので殺害困難。小木曽妻は免許を持ってないので車の運転ができないので実行困難。夫婦が共犯でも徳永を誘い出す口実がない。

事件当日の昼過ぎに鍵を借りた郡司と恩地が怪しいといえば怪しい。郡司なら徳永を誘うことは容易。しかしその場合、なぜ自分が疑われるような密室にしたのかという疑問は残る。

そもそも徳永の死体と猫の死骸の時系列がおかしい気がする。腐臭がするのに1日、徳永が死亡半日だと仮定すると、猫を先に殺しておいて徳永と一緒に民主1号に行き、徳永を殺して、猫を軒先に置いて、逃亡した?

郡司に疑いを向けさせるため、他の人間全員がはめたという線もありうる。小木曽夫婦が主犯に鍵を貸してもいいし、恩地が一人行動してもいい。

解体殺人の推理

20:35頃に郡司の車が守衛を通過し、21:10頃に郡司の首が見つかっている。この間35分。

郡司の殺害現場と解体現場は郡司の車内。台風で血を流せるとは言え、35分で郡司を殺してバラバラに解体し、遺体を誰にも見つからないように二階や階段に置いていけるだろうか?

郡司が学校に来てから殺されたと仮定する。犯人は郡司に警戒されずに車内に入ることができ、殺害できる人物。その後身体をバラバラにして(結構な道具が必要なはず)、血まみれになりながらも(台風や雨合羽で血を洗い流せるとしても)それを誰にも悟られないように痕跡を消し、さらに遺体を誰にも見つからないように設置する。無理がなかろうか。

できるとしたら、遺体の設置だけだろう。実は郡司は学校に来る前に死んでいて、バラバラに解体済み。誰にも見つからないように学校に遺体を設置する。これなら35分で比較的かんたんに遂行できる。

ということで守衛の証言で20:35に郡司が来たとなっているが、守衛は怪しい。ただ守衛が主犯だとは思えないので、共犯か、そのように証言するように買収されていたかどちらかだと思う。

守衛を買収できるのは誰か?鏡子なら女を使って買収できるかもしれない。

ここで問題となるのは別宮と鏡子たちの行動。20:40ごろに別宮は郡司の車を発見し、鏡子たち3人を構内から退去させた。その際、別宮は乙階段だけでなく、一階や二階、営繕棟東側の外周……つまりいろんなところをチェックして、乙階段から勝利たちのところに戻ってきて、撤収作業をしている。

つまり、鏡子が遺体を設置したとするなら、別宮に見つかる危険性が常にあったし、別宮が戻ってくる前に遺体を見つける可能性もあった。

となると、別宮も共犯説が高い。

郡司の車を運転してきた人がいるはず。これは消去法で、ハヤト・ロビンソン。鏡子に協力する動機も持ちうる。

なのでまとめると、

・主犯:鏡子またはハヤト・ロビンソン(殺害と解体) ・共犯:守衛(嘘の証言) ・共犯:別宮操(遺体設置)

だと思う。郡司は鏡子になら動機があるだろう。別宮は生徒を守るなら殺人を許容する人だったのかもしれない。

と思ったが、恩地と用宗校長も怪しい気がしてきた。

そもそもハヤト・ロビンソンが取って付けたような感じなんだよな。守衛を買収できるのも、用宗校長ならできるような気もする。

そういえば恩地は密室殺人のときに郡司といっしょのフォードに乗って民主1号までやってきた。つまり恩地は郡司と徳永ともそれなりに縁があったと言えて、翻ってそれなりに動機を持ちうるとも言える。郡司のフォードを運転してきたのは恩地か?恩地は医者なので、死体を解体する術も心得ているだろう。

となると密室殺人の犯人も恩地が怪しいな…。

正直よくわからないが、別宮だけは突出して怪しい。別宮、用宗校長、恩地の3人が未来ある少年少女のために腐った大人を成敗した。「たかが殺人じゃないか」でいい気がしてきた。

真相

密室殺人はなんか……ソロバンを使って滑り台?をした?あまりイメージできなかった…

解体殺人はなんか……その手があったか!+力技!って感じ?誰かが別の行動とってたら即バレしそうなリスクのある行動すぎると思うんだけど、別にそのリスクを犯人が許容してもいいじゃんなら、いろんな犯行方法もありになっちゃう気がするんだけど……? 解体作業中に絶対汚れると思うんだけど、そのへんの処理もどうしたのかもよくわからなかった。

まあ、私の推理は全然あってなかったですね。

時代が時代なので、科学捜査はほとんどされないという暗黙的な前提だからこそ成り立つのだろう。時代描写が出色だった。